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       *映画「超銀河伝説」のノベルに感化されて昔に書いたものです。映画のお話をご存じでないと、さっぱりわからないかもしれません。 
          そして、いきなり始まっていきなり終わります。いつものことかもしれませんが、ごめんなさ〜〜い。 
       
      1-1.ハインリヒ 
         
        (フランソワーズ…泣いてた?) 
        木陰で、フランソワーズを見つけた 俺はとっさにそう思った。 
        彼女の目が少し赤く、潤んでいたように見えた。 
        もしかして、あいつとあのタマラのことを知ってしまったのか。それとも……。 
        いつか、こんな風に彼女が悲しむのではないかと、ずっと考えていた。 
        知ってしまわなければいい……そうも思っていた。 
        それが彼女のためかどうかは分からないけれど、少なくとも、俺はそんな彼女を見ていたくなかった。 
        でも……もしも知ってしまったのなら。 
        思いきって、後ろから声をかけた。  
        「フランソワーズ」 
        「あら、ハインリヒ」 
        振り返った声は明るい。俺の心配のしすぎだったか……? 
        「どうしたの?こんなところで」 
        「それはこっちの台詞さ?フランソワーズこそどうしたんだ?」 
        「私は散歩。ずっとイシュメールの中だから、ちょっと外の空気を吸いたくなったの。さっきまでサバも一緒だったんだけど、大人に呼ばれて先に行っちゃったわ」 
        ふふっと小さく笑う彼女に、少しだけ安心した。 
        「俺も似たようなもんだな。あっちの点検に行ってきたんだ。ちょっと気が向いて遠回りしてきたんだ」 
        これは本当だ。まさか、こんなフランソワーズと行き会うとは思わなかったけどな。 
        「もうイシュメールに帰るんだろ?行こうぜ」 
        「ええ、そうね。大人ったら一人でお料理してくれて、手伝わせてもくれないのよ。大人の料理はおいしいからレシピを教わろうと思ってたのに」 
        明るく歩き出す彼女。なんだかちょっと違和感がある。 
        「どうかした?」 
        笑顔で聞き返す彼女。オレはなんだか哀しかった。 
        「…ムリすること、ないんだぜ」 
        それだけで彼女には充分通じた。ふいに表情を曇らせてこちらを振り返る。 
        「ハインリヒ……」 
        オレはそれ以上、何も言えない。 
        「ホント、なんでもないの。ヘンなハインリヒ。どうかしたの?」 
        「いや、ちょっと目が赤かったから、心配になっただけさ」 
        君が言いたくないのなら、無理にこの話題に持っていく必要はない。 
        「……ありがとう。ちょっと疲れただけ」 
        微笑みもどこか痛々しい。 
        もう、彼女は気付いている。あいつとあのタマラのことに。 
         
         
        1-2.フランソワーズ 
         
        「フランソワーズ」 
        急に声をかけられてびくりと体が震えた。 
        あわてて振り返る。 
        「あら、ハインリヒ」 
        なんの変わりもなく、言えたはず。いつも通りの私でいられたはず。 
        涙を見られてしまったかしら。ううん、そんなはずないわ。  
        大丈夫、ハインリヒに心配はかけたくない。もう、大丈夫。  
        「どうしたの?こんなところで」 
        「それはこっちの台詞さ?フランソワーズこそ、どうしたんだい?」 
        「私は散歩。ずっとイシュメールの中だから、ちょっと外の空気を吸いたくなったの。さっきまでサバも一緒だったんだけど、大人に呼ばれて先に行っちゃったわ」 
        ウソはついていない。サバも一緒だった。 
        その時に見てしまったのだから。 
        ジョーとあの王女様のただならぬ雰囲気を。 
        だから、 一人で落ち着いて考えたかった。この醜い、私の心の混乱を静めたかっただけ。        
        「オレも似たようなもんだな。あっちの点検に行ってきたんだ。ちょっと気が向いて遠回りしてきたんだ」 
        少しだけホっとした。ひとりであそこに帰るのは今は辛い。 
        ジョーの顔を見たらさっきの光景を思い出しそうで、怖かった。本当はもう少しここにいたい。 
        でも……。 
        ここでハインリヒに会えたことは幸運なのかもしれない。ずっと逃げ回っているわけには行かないもの。 
        「もうイシュメールに帰るんだろ?行こうぜ」 
        「ええ、そうね。大人ったら一人でお料理してくれて、手伝わせてもくれないのよ。大人の料理はおいしいからレシピを教わろうと思ってたのに」 
        みんなに、こんな私の様子を気取られたくない。私のこんなに醜い姿を見られたくない。 
        ハインリヒがじっと私を見ていた。 
        どうして?何を言いたいの?何を知ってるの?私を哀れんでいるの? 
        「どうかした?」 
        少し声が震えた。喉の奥に何かがこみあげてくるみたい。苦しい。こんな気持ち、吐き出してしまいたい。 
        でも……みんなを巻き込むことは絶対にしてはいけないこと。 
        「…ムリすること、ないんだぜ」 
        心臓が飛び上がる。やっぱり、すべてを知っているのね。何も知らなかったのは私だけだったのね。 
        ジョーの気持ちも、タマラさんの態度も……。 
        知らなかったのは私だけ。私だけが何も知らずに笑っていた。 
        一番大切なはずのジョーの気持ちさえ見えなかった。 
        私は今まで何を見てきたのだろう。何をしてきたのだろう。何を知っていたのだろう。 
        「ハインリヒ……」 
        それ以上なにも言えない。 
        ……こんな時期にこんなことでみんなに心配はかけられない。 
        これは私の問題。私が乗り越えなければならないこと。 
        そう、ジョーがあの人を選んだのならなおさらに。本当に辛くなったらその時は……。今はまだ大丈夫。 
        「ホント、なんでもないの。ヘンなハインリヒ。どうかしたの?」 
        「いや、ちょっと目が赤かったから、心配になっただけさ」 
        ありがとう。あなたが私を見ていてくれてうれしい。少しだけ、力が湧く。 
        「ありがとう。ちょっと疲れただけ」 
        ちゃんと笑えただろうか?カンのいいハインリヒには、もうきっと気付かれてる。 
        私が泣いていたことに。 
        とても、心細くなっていたことに……。ありがとう。はげましてくれて。  
         
       
       
         
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