*いつも遊びに来て下さいまして、ありがとうございます。
平成版アニメ、とうとう終わってしまいました。リアルタイム見られなかった私でもなんだか寂しい気持ちです。
そして、ヨミ編。
やっぱりラストシーンはうるっと……その感動をぶち壊しにしてしまいそうですが、
見ていてやっぱりいろいろと想像してしまったので、アニメのストーリーをベースに、
るか的アレンジで書いてしまいました〜。
お礼にこれっぽちもなっていないような気がしますが(そして遅い…)よかったら読んでいってください。
お目汚し失礼いたしました(^_^;) (2002.10.30)
Wish(平成版アニメヨミ編最終回・るか的アレンジ)
*
「地下に爆弾が仕掛けられているわ!」
スカールの不敵な声を残して上昇していく魔神像に気をとられていた仲間たちが、一斉にフランソワーズを振り返った。
その間にもフランソワーズはさらにしっかりと探っているようだった。
さらに奥をじっと見つめている。
「すごいエネルギー量よ。多分…地下帝国すべてを崩壊させるくらいの……あと30秒!」
そう言いきって、仲間を見回す。
もう時間がない。
「終わりってことかよ、俺たちも。世界も」
ジェットが吐き捨てるように言った。
誰にもどうすることもできないのか。
自分たちに何ができるのか、考えがまとまらない。
その中で、フランソワーズは、ジョーの隣に寄り添いそっとその手の中に、自分の手を滑り込ませた。
「フランソワーズ」
ジョーが、彼女の名を呼ぶ。
誰もが不安を押し殺していた。
フランソワーズも同じだ。
彼の手にそっと触れることで、自分の不安や焦る気持ちを落ち着けたかった。
そして、もしもここで果ててしまうのなら、せめて一緒に。
そんなう気持ちも、心のどこかに引っかかっていた。
『009…君ニ……。君ニカケタイ』
イワンの言葉が全員の頭の中に響いた。
それぞれの視線が、ジョーに注がれる。
ジョーはイワンの言葉をしっかりと理解しようとしているようだった。
イワンを見つめ直し、ゆっくりと頷く。
イワンの前髪に隠れた目をまっすぐに見る、その瞳に迷いはないように感じられた。
仲間たちが息を飲む。
中でも、ギルモア博士が沈痛な面もちで彼を見つめていた。
それに気づいていたのかいないのか、ジョーがつないだままの彼女の手を握りしめる。
それと同時に、フランソワーズは顔を上げ、ジョーを見つめた。
彼のやさしいぬくもりがその手を通じて伝わってくる。
そして、それが彼の覚悟のあらわれであることも分かっていた。
ジョーが、フランソワーズに微笑む。
泣きたくなるくらい、優しい笑みだった。
心配ないよと言っているようにも見えた。
今までに見ていたどこか幼さの残るジョーとは、違う気がした。
この手を離してはいけない。
そう感じた一瞬後に、彼の体がぐらりと後ろへと倒れ込む。
フランソワーズの手の中から滑り落ちたジョーの手が、力を失った。
その手を追った彼女の指は、空をつかむ。
そして、ふわりと透けた彼の体はあっという間に消えていった。
「009!」
驚いてそう叫んだ次の瞬間には、自分の身に起こったことすらわからなくなっていた。
**
気づいた時、自分は荒れた海に投げ出されていた。
そこで、イワンが自分たちをテレポートさせたのだと思い至る。
一瞬意識を失ったのは、イワンが自分たちを仮死状態にしたからだろう。
慌ててあたりを見回すと、大きな波の間に仲間たちが見えた。
彼女は自分の能力を思い出し、全員の無事を確認しようとした。
大丈夫。そう自分に言い聞かせて仲間を確認する。
005も、006も、007もいる。
「ヨミは爆発したのか?」
誰かが問う。
そんな言葉は、フランソワーズの耳を素通りしていった。
さらにしっかりと辺りを見回す。
001はゆりかごに乗ったまま、宙に浮かんでいた。
ギルモア博は008が支えている。
002の赤い髪も、004の銀色の髪も波間に見えた。
それなのに。
それなのに見慣れた栗色の髪だけが、そこには見えなかった。
どれだけ目を凝らしてみても、さっき微笑んだ彼の姿がない。
『モウ一度跳ブゾ』
イワンの声が響いた。
「待って!009がいない!009はどこ?」
分かっていたのに。
さっきの001の言葉、ジョーの微笑みが何を意味していたのか。
分かっていても、波の間に彼の姿を求めた。
自分の目が、彼の姿を見つけられないことに苛立ちすら感じながら。
もう一度イワンに何ごとかを言おうとした途端、イワンの瞳が光った。
そして、彼女は再度、意識を失った。
***
次に気づいた時、さっきとは打って変わって凪いだ海だった。
青い空を見上げ、しばらくぼんやりと波に漂っていた。
今、ここがどこなのか、しっかり認識できない。
ふいに仲間たちの声が耳に入る。
そうだ。しっかりしなければ。
彼の姿を、探さなければ。
「え?009があの像の中に?」
『魔神像コソぶらっくごーすとノ本体ダ。アレヲ破壊シナケレバナラナイ』
「でも、どうして彼だけなの!?私たちも一緒に…」
その声に反射的に答え、詰め寄った。
『……犠牲ハ少ナイ方ガイイ』
イワンの声が、やけに冷ややかに聞こえた。
「犠牲って……」
分かっていた。
いつかこういう日が来ること。
でも、その時は全員が同じ運命をたどるのだと、そう思っていた。
それなのに。
……犠牲って……
「あいつにだけ背負わせたのかよ!」
ジェットも苛立ちを隠してはいなかった。
「一刻ノ猶予モナカッタンダ。世界ヲ滅亡カラ救ウニハ」
イワンの言うことは理解できる。
どうして、ジョーだけなの。
───犠牲は少ない方がいい。
彼一人にすべてを託して、私たちに生きろと言うの?
どうして?なんの為に?
それが、001の出した結論なの?
どうして私たち全員じゃないの?
9人で、言葉にしたことはなかったが約束していたはずだ。
全員で闘い、全員で生き残ること。
もしものとき。
全力を出しきって闘って、それでも敵わなかった時。
死ぬ時は一緒だと。
「だったら私も行くわ。お願い。私も魔神像に送って!」
空を見上げ、イワンに向かって叫んだ。
自分だけじゃない。ブラックゴーストを倒す為には全員の力が必要だ。
そう信じて闘ってきたはずなのに。彼だけがその中枢へと送られた。
9人の力を信じていたはずなのに。
「魔神像ハ今成層圏ダ。僕ノ力モ、モウ及バナイ」
「そんな……」
思わず口元に手を当てていた。
そうしていなければ、叫びだしてしまいそうだった。
「こいつはキツすぎるぜ。001……」
グレートが呟き、その隣でピュンマも沈痛な面もちでイワンを見ていた。
「……ワカッテイル」
「いやよ!」
彼が上がっていったはずの空を見上げる。
一瞬、脳裏に最後に見た彼の笑顔が浮かんだ。
今まで見た中で、一番優しいジョーの微笑み。
「こんなの、いや!お願い!009を戻して!001!」
海に浮かんだイワンのゆりかごを揺すった。
「お願い!001……お願い……ああ」
後の方は言葉にならなかった。
どうして。
どうして彼だけが。
誰かがやらなければならない。そんなこと分かっている。
それができるのは彼だけだった。
少なくともイワンはそう判断した。
万が一、ジョーが倒せなかったとき、ブラックゴーストを誰が壊滅させるのか。
それができるのは自分たちしかいない。
……犠牲は少ない方がいい。そんなこと、分かっている。
でも……とフランソワーズは思う。
せめて、最後は自分も一緒に戦いたかった。
彼と共に闘い、結果、命を落とすのならそれも仕方のないことだと思えた。
私はここにいるのに、自分の手を握り、微笑みを返してくれた彼は空の彼方へと送られてしまった。
彼だけを行かせて、自分がここにいることがなによりも許し難いことのように思えた。
……それがジョーの望みであったとしても。
彼を「犠牲」と言うイワンが恨めしかった。
このまま、イワンを責めてしまいそうだった。
イワンがなんの苦しみもなく、ジョーを犠牲にすると言ったはずなど、あるわけないのに。
****
ずっと黙っていたジェットが、イワンのゆりかごに取りすがって泣く彼女の姿を見つめる。
───そうだ、あいつは大事な仲間だった。
一番最後にやってきて、いろんなことに戸惑いながらもしっかり自分たちと一緒に戦ってきた。
性能でいったら、確かにあいつが一番有能なんだろう。
でも、どこか危なっかしくて甘くて、はらはらさせられた。
自分とは違う、傷つきやすそうなまっすぐな瞳は嫌いじゃなかった。
そして、003が泣いている。
あいつを想って。
あいつを一人で行かせていいのか?
あいつのことを「犠牲」の一言で片づけちまっていいのか?
こんな時、必ず口を出す004も何も言わない。
口をしっかりと結んだまま、003の姿を見つめ、それから魔神像の行った空を見上げていた。
博士はしょんぼりとうなだれていた。
波間に響くフランソワーズの小さな泣き声が痛々しい。
その声が、ジェットの心の奥の方を切り裂いていた。
───あんな声を聞きたくない。
あんな泣き顔を、見たくはなかった。
焦りに似た、焦りとも違う気持ちがこみ上げてくる。
オレたちにできることはないのか?
そう考えて思い当たる。
「泣くなよ、003。オレが助けに行く」
ハインリヒの見ていた空を見上げた。
フランソワーズがはっとして、こちらを見ている。
もう、それすらも関係がなかった。
『無理ダ。モウ間ニ合ワナイ』
「やってみなきゃ、わかんねえよ。あいつ一人だけ死なせられねえ」
009は仲間だ。
そして、誰も口にはしなかったが、死ぬも生きるも一緒だと固く誓い合っていた。
できるかもしれないこと、可能性があるのなら、それを実行するまでだ。
何もやらずに、あいつを失うことだけはいやだった。
ジェットがふわりと浮き上がり、轟音と共に空へと飛び上がった。
「002!」
誰かが叫んだ。
「ジェット!」
フランソワーズの声も聞こえた気がした。
ちらりと自分の起こした波に揺れる仲間を見て、後は遠い空の彼方を目指した。
まだジョーを取り込んだ魔神像の姿は見えない。
最後の一秒まで、チャンスにしがみついてやる。
その一秒まで。
その一秒がすぎたら、神よ。
生まれて初めて、あなたに祈ります。
*****
ジェットがまっすぐに上がっていった空をしばらくの間、見つめていた。
すでにジェットの姿は、彼女の目ですら追うことはできなくなっていた。
フランソワーズの目から涙がこぼれる。
行かないでとも、行ってとも言えず、ただ泣くことしかできない自分が情けなかった。
ジェットを引き留めることは、ジョーの命を完全に諦めることになること。
ジェットを送り出すことは、大切な二人の命を失ってしまうかもしれないこと。
分かっていて何も言えなかった自分が一番ずるい。
それでも、もしかしたら……。
そんな淡い期待もどこかにあった。
それで、なおさら何も言うことができない。
「……どうして……どうしてなの」
誰に言うともなく呟いていた。
「……お願い……二人を助けて」
「003」
「二人とも、ここへ帰ってきて。……お願い」
届かないと分かっていても、通信回線をオープンにして呼びかけ続ける。
「ジェット、ジョー……私たちはここで待ってる。あなた達が帰ってくること。だから……。お願い。ここに帰ってきて」
祈るような姿勢で、フランソワーズは空を見上げていた。
そして仲間たちも、同じようにして空を見上げ始めていた。
******
ジェットが飛び出して行ってから、どれだけの時間がたったのだろう。
夕焼けに赤く染まった海の中で、フランソワーズは両手で顔を覆い、泣いていた。
どれだけ呼びかけても、彼らからの応答はない。
どれだけ目を凝らし、耳をすませてみても、彼らの気配を感じることはできなかった。
ハインリヒの手が、後ろからフランソワーズの肩にかけられる。
たまらず、その胸にすがりついた。
何も言わずに抱き留めてくれる腕が優しい。
そうして思い至った。
そうだ。ハインリヒは、大切な人を亡くした。
そして、また、今も。
涙を流してはいなかったけれど、その静かな瞳の奥で、ハインリヒが泣いているのだと分かった。
ハインリヒの、彼女を抱きとめる手に力がこもる。
フランソワーズはそれを感じて、声を上げて泣いた。
信じたくはなかった。
まだ、彼らが帰ってくることを待っていたい。
ここにいれば、ジョーが、ジェットが帰ってくると信じていたかった。
あれきり何も言わないイワンも、他のみんなも悲痛な面もちでうなだれているのが分かった。
『お願い。ここに帰ってきて。どんな姿でもいい……お願いだから……』
何度も繰り返した言葉を二人に向かって語りかける。
ハインリヒが、ふいに空を見上げていた。
『……ジョー。君はどこに落ちたい?…』
かすかな声が届いたような気がして、フランソワーズは大きく空を仰いだ。
一瞬通信回路に入り込んできた気がした声は、もう感じることができない。
それでも、なぜか彼らの声だと思えた。
じっと目を凝らし、耳をすまし……そして聞いた。
いや、実際に聞いたのかどうかも分からない。それでも感じたような気がする。
二人の体が燃えながら落ちていく音を。
彼らのかすかな最後の言葉を。
「ジョー!!!!」
白く光る星が流れていく。
あれが彼らなのだろうか。
目の前が徐々に暗くなり、体中から力が抜けた。
見なくては。あれがジョーとジェットの姿なのか。
私がちゃんと見なくては。
けれど体がいうことを聞かない。
イワンが高く浮き上がってそちらを見ている。
何かを言っているようにも思えたけれど、それを聞くことはできなかった。
どうか生きていて。
ここに帰ってきて。
意識を手放す瞬間までそれだけを思っていた。
どうか、生きていて。ジェット……。
お願い。ここに帰ってきて。ジョー。
The end
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