「はぁ」
彼女はテーブルの上に置かれた小さな包みを見つめて、ため息をついた。
さわやかな水色の包装紙と、白いリボンでラッピングされたその包み。
リボンの間に小さなカードも挟まれている。
もう一度ため息をついて、それを脇に押しやると、その向こうにあった皿を引き寄せた。
小さく丸めたチョコレートがたくさん並んだ白いお皿。
(あとはココアパウダーを振りかけば、できあがりね)
バレンタインの日にチョコを贈るなんて変わってる、と思っていた。
なんとなく売り場に並んだ材料に唆されて、作ってみると、これがなかなかおもしろい。
どうせなら、日本のお祭りに乗ってみるのもいいかもしれない。
そう思って、急いで作ったトリュフだった。
夕食の後のお茶の時間にでもみんなに食べてもらおうかな。
小さな球形のチョコレートに、手早くココアパウダーを振りかけていく。
まるで褐色の雪みたいだ…と思わず微笑んだ。
(……問題は……)
パウダーを振りかける手を止め、もう一度その包みを取り上げる。
トリュフを作るより先に、こっそり作り上げた一つの贈り物。
これを渡したら、彼は喜んでくれるかしら………驚くかしら……。
困った顔を、したりする?
私はあなたにとってどんな存在でいられるの?
仲間?……力を持たない守るべき存在?
それとも………。少しは自惚れても、いいのかな。
ふと、時々こちらを見る彼の瞳を思い出した。
何も言ってはくれないけれど、同じ気持ちでいてくれたらどんなに嬉しいか。
いつも自分を見る、優しい、はにかんだような表情がいかにも彼らしい。
そんなことを想いながら、作りかけのその丸いチョコレートを一粒つまむ。
じっとそれを見つめると、想いを込めてそっと唇を寄せた。
ふわりと甘い香りがする。
「フランソワーズ?」
ふいに、部屋の外で彼の声がした。
(やだ、私、なにやってるのかしら)
慌ててそのチョコレートを皿に戻すと、ぐるりとあたりを見回した。
「……フランソワーズ……あ、キッチンにいたのか」
彼があの優しい瞳でこちらを見て、微笑んだ。
「ジョー」
「あれ?何をしていたの?」
「え、あの、チョコレートを作っていたの。みんなに食べてもらおうと思って」
そっと手にしたままの小さな包みを後ろに隠した。
「今日はバレンタインデイでしょ」
「そうか。おいしそうだね」
彼は嬉しそうに笑った。
彼女はその笑顔に引き込まれるように微笑んだ。
「まだデコレーションしてないけど、よかったらお一つどうぞ」
少しおどけて、そっと皿を差し出す。
そして、ふと先程のことに思い至る。
「あ!」
「どうしたの?」
「な、なんでもない。……味見、する?」
……もしも彼が、あの一つを選んだら……。
後ろに隠した水色の包みをそっと握る。
「ありがとう」
彼は迷わず、一粒を取り上げると口の中に入れた。
「…あ……」
自分でも頬に朱がさすのがわかる。
「フランソワーズ、すごくおいしいよ!甘いけれど、甘過ぎなくて、食べやすくて……フランソワーズ?どうかした?」
「ジョー…あの……どうしてそれを選んだの?」
彼は怪訝な顔をして彼女を見つめた。
「え?なんだか一番おいしそうに見えたから」
ますます頬を染める彼女に、彼は頭をひねる。
「……ジョー、あのね……」


The end
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