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       短編です。(短かすぎる!) 
        ゲームだったか、小説だったかのシチュエーションに触発されて書いた気がします。 
         
       
      雨やどり 
         
        「大丈夫か?」 
        「ええ、すごい雨ね……。みんなは大丈夫かしら」 
         
         
        ミッションの最中だった。 
        ハインリヒとフランソワーズの二人は、突然降り出した豪雨に、手近な大樹の木陰へと飛び込んだ。 
        「これじゃ、予定通りの偵察もままならないな」 
        ハインリヒが枝の間から空を見上げる。 
        「バケツをひっくり返したような雨ってのはこういうのだろうな。……すぐにおさまるだろう。それまで少し、休息だ」 
        「そうね」 
        彼女は濡れた額にはり付いた髪をかき上げる。 
        ふわりと髪の香りが鼻先をかすめる。 
        やわらかな甘い香り。 
        ハインリヒは視線を外へと移した。 
        懐かしいような気持ちが、なぜかこみ上げてくる。 
         
         
        雨は変わらず降り続けている。 
        激しい雨が、外の世界とこの木陰とを隔てているようだと思った。 
        「雨に閉じこめられているみたいだな」 
        「え?」 
        隣で同じように雨を見つめていたフランソワーズが振り返った。 
        その声も、激しい雨音にかき消されそうだ。 
        「俺たち二人のいるこの木陰と、外を隔てる水の壁みたいだ」 
        「……そうね」 
        そう答えられた途端、自分で言っておきながら、なんだか気恥ずかしくなる。 
        「いや、なんでもない。忘れてくれ」 
        「どうして?」 
        フランソワーズが青い瞳をこちらに向ける。 
        「いや……」 
        ちらりと彼女を見る。 
        「柄にもないことを言ったもんだと思ってな」 
        「そんなことないわ。……ここは雨の音しか聞こえない。……この外で、激しい戦闘が行われているなんて、嘘みたい」 
        フランソワーズが視線を外へと移す。 
        「このまま、雨が降り続けたらいいのに」 
        そっと手を雨に向かって差し伸べる。 
        激しい雨が手のひらを打ち、滴り落ちる。 
        「水の壁に阻まれて、また戦いがはじまらなければいい」 
        「そうしたら、ずっとここから出られないな」 
        からかうようにハインリヒが言った。 
        フランソワーズが小さく笑う。 
        「そうね。……なんでもないの、忘れて?」 
        ハインリヒもにやりと笑った。 
         
         
         
        二人は大樹の幹に背を預け、先ほどよりは少し勢いの弱くなった雨を見つめていた。 
        「……俺たちは、戦かわなくちゃならない。戦いを終わらせるために」 
        「……ええ」 
        「だから、雨が降ってる間は戦いのことを忘れていい。雨が降っている間だけは」 
        フランソワーズの返答は聞こえない。 
         
        頬が濡れているように見えるのは、雨のせいだろうか。 
         
         
        もう少しだけ雨が降り続けたらいいのに。 
        今だけ。もう少しだけ。 
      The 
        end  
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