＊Merry Christmas!
いつも遊びに来て下さいまして、ありがとうございます。
ずいぶんと間があいております。
久しぶりに季節物を〜！と思いまして。
でもやっぱり、だからなに〜？なお話です。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
よかったらまた感想など聞かせていただけたら嬉しいです。　　（2004.12.24）

Icy light

目の前には、無数の青く輝く小さな光。

人の行き交うこの広場の中心に、見上げるほど大きなシンボルツリーがたっていた。
今は、その枝たちに青い光がいくつも輝いている。
深い青。少し白味を帯びた明るい水色。その二色の光は冬のきんとした空気を、いっそう澄んだ物にしてくれているような気がした。
風にゆれた枝がときおりそれを遮って、遠くから見るとその輝きが点滅しているように見える。
その光が、今日は緩やかに水の流れる噴水の水にゆらゆらと映って数を増していた。
彼女はその中にいる。
その光にまぎれて、彼女の口元からこぼれる白い息さえも見えないほどだった。

その木の下には、仲の良さそうなカップルや、数人の女性連れがそのイルミネーションを見上げていた。
待ち合わせなのか、ツリーとは反対方向に立つクラシカルな装飾を施した大時計へと目を向けている人も多い。
それを少し微笑みながら見てから、同じように時計に目をやった。
もう6時を10分過ぎている。あたりには静かなクリスマスソングが流れていた。
彼女のすぐ隣に置いた、カフェスタンドの紙のカップに入ったコーヒーから、ほのかに白い湯気が上っていた。
「…さむ」
小さく声に出して、両手でそのカップを包み込んだ。
冷えた指先にじんわりと暖かさが戻ってきた。一口、口を付けると少しぬるくなったコーヒーが同じように体の中を暖めてくれた。
ふいに強い風が吹いて、あちこちから小さな非難めいた悲鳴が上がった。
強く冷たい風は、たくさんの砂ぼこりまで舞い上げて吹き付けてくる。
思わず強く目を閉じる。木からしゃらしゃらと音がしているのが分かった。
まるで鈴の音のようだと思う。
高くはないけれど澄んだ音が、辺りに流れるクリスマスソングと重なっていく。
気がつけば、緩くウェーブのかかった亜麻色の髪が、顔にかかってすこしもつれていた。
「…もう、嫌な風」
そっとその髪をかき上げると、正面の入り口にその姿が見えた。
白い息を弾ませながら、慌てて走ってくる。
あの栗色の髪を、自分の乱れてしまった髪よりも、もっともっと乱して。
フランソワーズは、慌てて髪をなおした。
入った所できょろきょろと辺りを見回している。
その、なんだか弱り果てたような表情に彼女は小さく笑った。
噴水の前って言ったのに。といっても、こんなに人がいるんじゃ探すのも大変ね。そう思って
立ち上がろうとしたとき、入り口近くにいた女の子たちがその姿を見つけてひそひそと囁きをかわしているのが見えた。
お互いをつつきあって、彼の方に振り返る。
なんだかとても落ち着かない気がした。


ふと動きが止まって、彼がゆっくりとこちらを見る。小さくそっと手を振ってみた。
ほっとしたような、なんだか怒っているような複雑な表情をして、彼はまだ彼女の方を見ていた。
そして人通りの多い中大股にまっすぐに彼女の所にむかってくる。
視線は、まっすぐに彼女を捉えたまま。
ちゃんと周りを見ないと…そう思っている内に、案の定、彼がすれ違いざまに当たったのか、女の子が抱えていた荷物を落とす。
慌ててそれを拾って、女の子の手に戻していた。
なんだかいつもと違う彼に、フランソワーズはくすりと笑った。
女の子の荷物、壊れ物じゃないといいんだけれど。
大切な人のために選んだ大事なプレゼントかもしれない。
女の子が彼になにやら声を掛ける。
ほんのりと頬が染まっているのは、風の冷たさのせいだけじゃないようだった。
どきりと心臓が跳ねる。
彼は困ったような表情で、頭を下げようやく彼女の前へと走ってきた。


「ゴメン！！フランソワーズ」
「15分の遅刻ね。でも、走ってきてくれたから許してあげる」
「寒かった？」
「…そんなことないわ」
「ふふ、でも鼻が真っ赤になってる」
ぱっと顔を手で覆う。
「噴水の前って言ったのに」
立ち上がって、横に置いた空のカップを手にする。
「あ、そうか……そうだったよね、うっかりしてた」
「忘れてたの？だったらよく分かったわね」
「う、うん」
「私もすぐに分かったわ」
ちらりと横目で彼女が見る。
「どうして？」
「…ん…秘密」
フランソワーズが笑う。
「でも一番に見つけたのは、私よ」
ジョーが怪訝な顔をした。
「僕も広場の中に入ったら、すぐに分かったよ」
「どうして？」
明るい青い光をもっと青い瞳の中に閉じこめて、彼女が彼をのぞき込む。
こんな彼女に彼が隠し事などできるはずもない。
少しためらって、視線を逸らした。
「だって……あの広場にいた男、みんなが君を振り返っていたから……その、カップルで来てた人もね。だからみんなが見てる方を見たら、その真ん中に君がいたんだ」
彼女の鼻どころか、頬までも赤く染まっていた。
「そんなの…嘘よ」
「嘘じゃないよ」
ジョーが笑う。
「青い光が噴水の水面にも映って、なんだかちょっと神秘的で」
とても綺麗だった。この夜らしいと、そう思った。
（他のヤツがそれを見てるの、ちょっと腹が立ったから）
最後の言葉は、そっと飲み込む。


二人は大きなツリーを見上げた。
暗くなった空にくっきりとツリーの形が浮かび上がる。
鈴の音に似た音を立てながら、点滅するように揺れている。
そして、足下の噴水を見た。
ずっと高い空にも、ずっと深い水の中にも青い光がちらちらと瞬いているように見えた。
フランソワーズの真っ白なコートがその光を反射して、彼女自身が青い光に包まれているようだ。
遠くで青いイルミネーションを見たときはなんだか少し冷たそうだと思ったりもしたけれど、冴え冴えとした清らかさはこの聖なる夜にはぴったりだった。
そして、その光を纏う彼女にも。

「行こうか」
彼の声に、彼女が頷く。

二人が青い光の中に溶け込んでいく。
後には静かなクリスマスソングと、行き交う人たちの楽しそうな声が残った。

きんとした澄んだ空気の中で青い光が静かに瞬いていた。

The end

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